課題『身近なコンバージョンプロジェクトのリサーチ』/山本麗奈
身近なコンバージョンプロジェクトのリサーチ
「3331 Arts Chiyoda」
□計画の概要
「3331 Arts Chiyoda」は、東京都千代田区の廃校となった旧練成中学校を再活用し、2010 年6月にオープンしたアートセンター。
1階
本格的な展覧会を行うギャラリーやコミュニティスペース、レクチャーやイベントを行うラウンジの他、ショップ、カフェといった美術館と同様な機能が連続。
2、3 階
活動スペースが並び、国内外のさまざまなアーティストやクリエーター、ギャラリストたちが制作を行うアトリエやオフィス、展示を行うギャラリーとして幅広く利用。
体育館
多目的スペースとしてダンス公演やイベントに利用。
地階
アーティスト育成を目指したスクールを開校、屋上グラウンドには菜園が設置されて地域住民たちに貸し出し。
「3331」の由来
「江戸一本締め」をご存知ですか?
江戸一本締めは、おめでたい席で感謝の意を表す風習として、古く江戸時代から受け継がれてきた手締めの文化。
かけ声の「イヨーオ」は、「祝う・祝おう」が語源といわれ、さらに「シャン・シャン・シャン」と三回打つことが三回で合わせて九(苦)となり、最後に「シャン」と一回打つことで苦を払い、「九」に一画加えて「丸」になるとされている。
「3331」のマークは、そのリズムを数字で表したものです。
□分布図(周辺分析)
旧練成中学校は、秋葉原に隣接する地域に位置している。
周りは、オフィスビルが立ち並んでおり、秋葉原らしい電気ショップやフィギアショップやメイド喫茶などが多い。
よって、非常に狭隘な校地に建てられており、建物の屋上をグラウンドとして利用していたり、体育館が校舎内部にあって周囲を教室が取り巻いていたり、各機能が立体的に組み合わされた都市的な特徴を持つ校舎。
□プロジェクト基本データ
名称:3331 Arts Chiyoda
竣工年:1期工事 2009年11月〜2010年2月
2期工事 2010年4月〜6月
プロジェクト総括ディレクター:中村政人(コマンドA)
プロジェクトマネージャー:清水義次(アフタヌーンソサエティ)
設計事務所:佐藤慎也+メジロスタジオ
敷地面積:3,495.58㎡
建築面積:2,086.48㎡
延べ床面積:7,239.91㎡
建ぺい率:60%
容積率:200%
構造:RC造 一部鉄骨造
□写真
Befor
当時、公園の左側の一角が学校のプール、技術家庭科室は地下にありました。
左から/現ウッドデッキ部分。半地下のため幅約2.500mmのドライエリアが開いており、公園と校舎はフェンスで仕切られていた。/現コミュニティスペース。間仕切り壁、公園側の腰壁を撤去し、開放的なワンルームに変換。撤去した壁量は、ギャラリー空間に耐震壁を増設することでまかなう。/エントランス/元調理室。現ラウンジ。換気フードは撤去し、形跡やダクトはそのまま残している。
After
内装
下駄箱が地域の活動やアーティストのパンフレット入れに再利用
□設計手法分析
南側に隣接する練成公園が同時に再整備されるにあたり、地元住民を中心とした協議会に加わり、中心に立つクスノキの巨木を象徴的に残した開放的な明るい公園を提案する。
改修前
中学校の昇降口が東側道路に面し、校舎の裏側と公園はフェンスが隣り合っていた。
そこで、裏を表にして再計画するために、構造軀体を移設してコミュニケーションスペースやギャラリーへの通路を確保。
公園へ向けた巨大な開口部を設けることで、内部から外部へと連続する計画を実現する。
それにより、このアートセンターが人々とアートを結びつける場所として有効に機能しています。
□MD分析(業体)
改修は PPP(Public Private Partnership)方式により進められた。
そのため、実施設計・監理、改修工事を運営団体が中心となって進めることができ、ソフトとハードが一体となった計画を実現することができた。
プロポーザル時の大きな与件として、隣接する練成公園が同時に再整備される。
そのため、これまでは校舎の背後に無関係に位置していた公園からのアプローチが要求されました。
そして、公園側からのエントランスに関するバリアフリー対策、エレベータ設置、空調などの施設インフラ改修、法律への適合といった工事費を区が負担した。
不足分とそれ以外の改修についてはコマンドAが負担した。
PPP方式であったことにより、コマンドAは千代田区から施設を借り受けているが、改修計画の時点から運営内容と合致したハードを整備することができる。
そのため、アーティスト・イニシアティブによる活動を内包したアートセンターを理想的に実現することができました。
□通路寸法分析(天井高さ)
4m
階数:地下1階 地上4階
最高高さ:17.4m
□動線分析
限られた予算を全体としてのわかりやすい価値を取得するため、主な操作は1階に集約。
大きなウッドデッキにより隣地に接続させ、公園と一体的に利用できる。
また耐力壁を解体・再配置することで自由度の高い流動的空間を確保した。
これにより、展示動線を必要とする美術館の機能を満たしている。
□照明分析(意匠)
照明器具などの設備も、補修するように極力既存を再配置して利用。
□素材分析(外装、公共部内装、ランドスケープ)
建築的な作法を極力避け、アーティストが運営する施設にふさわしい性能を確保することを主眼に置き、活動に応じた極端な改修方法を採用している。
本格的な展示会を行うギャラリーでは、完全なホワイトキューブと呼ぶべき徹底した改修を行う。
一方で、国内外のアーティストやクリエーターの活動を支援する活動スペースでは、学校が持っていた記憶をそのまま残した最小限の改修に留めている。
それらは、空間を視覚的にデザインすることとは異なり、表面に必ずしも現れないストラクチャーをデザインすることを目指したもので、場所と呼ぶべき抽象的なものをデザインする作業でした。
そして、カフェや活動スペースのインテリアデザインは各利用者に委ねられ、さまざまな建築家やインテリアデザイナーが参画し、多様な空間をつくり出している。
□現在の企画
・展覧会
・千代田芸術祭
千代田芸術祭とは、表現やものづくりの発信拠点である 3331 Arts Chiyoda を舞台に毎年行われている参加型の芸術祭。未だ見ぬ表現が立ちあらわれる現場を目の当たりにできる場として、2010年よりスタートした。 美術、工芸、写真、映像、身体表現、ロック/ポップスからサウンド・パフォーマンスまでの音を使った表現、さらには独自のセレクトや手仕事で勝負するマーケットまで、既存のジャンルやルールにとらわれない“今”を表現する人々が、本芸術祭の主役。
・イベント、WS
3331熱中教室、子展、FUTURE SHORTS ショートフィルム映画祭といった活動が行われている。
□感想
今回、調査してみて見た目は学校のままで懐かしさを感じながらも、中は各教室がアーティストの方の展示や事務所として活用され、近所の会社員や住民の人々の憩いの場所へと使われていてとてもいい空間だと感じました。
また、誰でも無料で利用できるフリースペースも充実しており、お昼時には近隣にお勤めの方々やベビーカーを押すお母さんたちで賑わい、夕方には宿題をする子供たちの姿も見られます。
アートに興味を持つ人のみならず、誰でも気軽に利用できるのが3331 Arts Chiyodaの特徴で、第一線で活躍するアーティストやクリエイターから、地域の子どもたちまでが集い、日常的に創造力を育む文化的活動に触れることができます。
東京だけでなく、日本各地や東アジアをはじめとする「新しいアートの拠点」を目指す一方、区民の方々をはじめ人々の憩いの場でもありました。